酒三題(「のんだくれ」)

                                          

 

覚えたての学生じゃあるまいし

そこまで 酒びたることはあるまい

まるで馬鹿みたいだ

 

『酒は 人生の機微だ』

『酒は 喜びを倍加させ悲しみを軽減する』だと!

 馬鹿も休み休み言え 

  そんなウソッパチをよく言えたもんだな

『酒は 俺を酔わせるためにそこにある』だって!

  フザケルナ! 馬鹿野郎!

 

 これっぽっちのものに 能書きを付けなければ 

 呑めないと言うのなら         酒は

 ただ

 私が私を見つけられない

 どうしようもない いらだちと

 私が私であることの

 とどめようのない悔恨を 

 ここにいる私に

 ひきずらせてしまう

  ただ それだけ

                              

         

 

あんたは いま

ハッピーかい?

なに そうでもないって? 鬱々して落ち着かないのか

それじゃ 僕と一緒に

日が落ちるのを待って飲みに行こう

酒はいいぞ

マァ慌てるなよ 暗くならなければダメだ

明るいうちの酒は 理性のダムにたまる一方で

ちっとも胃の腑に落ちて込ないからな

  大丈夫だ だんだん肩の力が抜けてきて

 あたりは滲み あんたを やさしく

 包み込んでくれるぞ

 明日もない 今日もない

  グラスに沈みこんだ 都合のいい未来と過去だけを 

  飲み干せばいいのさ

 

飲め! 飲め! 飲め!

夜が明けて 予定どおり

朝陽が昇ってしまうことに

気がつくまで

飲め!                                            

     〇

              BARのまあるい椅子

        から

 のんだくれて

転がり落ちたことがあるか

君は BARのまあるい椅子から

転がり落ちる程のんだことがあるか

  だいいち そんな風にのめるのかよ 

 

    −ゆるしてくれ 酔っ払いの言い訳を

 −聞き流してくれ しがないサラリーマンの

        サラリーマンたる

              唯一の誇れる遠吠えを

                           

 

    

                        「ハマ文芸」21号(96年1月1日刊)所収
   
       
       
       
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